共に行う調理
ヘルパー 辻豊子
高次脳機能障害(失語症)の 50 代の女性。長年高齢のお母親のお世話をされていた方でした。私はお母様の身体介助で訪問していましたので元気な時の彼女を知っていました。お母様が亡くなられ、一人での生活が始まるとすぐに脳梗塞で失語症になられたのです。歩行等は自立できていたため、会話が無くても行える日常生活は保てていましたが、自分で調理ができるようになりたいとの希望があり、「共に行う調理」の計画で訪問することになりました。スーパーで品物をかごに入れ、レジで支払いをすることは出来たので、冷蔵庫の中には野菜などはありましたが、料理するのに必要な食材として買ってきたものではありませんでした。必要な食材を探し、探せないときは他人に尋ねて購入することは出来ませんでした。冷蔵庫の中の食材で作れるものを「た・ま・ね・ぎ」「二・ン・ジ・ン」と文字版を指差し、声に出しながら料理内容を考え調理しました。時にはご本人が考えていた料理と違っているときもありましたが、テレビを見ていた時の調理内容を伝えようとされたり、物を並べて作れるレシピを教えてほしいと言われるようにまでなられました。私も文字盤を指差し、口を大きく動かして、声に出せるようにと必死に行った記憶があります。一夜にして変わってしまう人生に「共に行う調理」を通して寄り添い、一緒に前に進もうとした事例です。
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