「リハ栄養と新食研と私」
東京女子医科大学病院 リハビリテーション科教授・診療部長 若林秀隆先生
Think globally, act locallyという言葉があります。食支援でact locallyの代表格といえば、新宿食支援研究会(以下、新食研)と京滋摂食・嚥下を考える会です。私は神奈川摂食嚥下リハビリテーション研究会で地域活動をしてきましたが、2011年に日本リハビリテーション栄養研究会(現、学会)を立ち上げてからThink globallyに重きをおきました。しかし、新食研に加入したからには今後はact locallyにも力を入れようと考えています。具体的な目標としては「東京女子医科大学リハビリテーション科のマネジメント」「嚥下チームの活性化」「地域での食支援活動」です。
リハビリテーション栄養(以下、リハ栄養、※リハビリテーションはリハに略)の定義は『ICFによる全人的評価と栄養障害・サルコペニア・栄養素摂取の過不足の有無と原因の評価、リハ栄養診断・ゴール設定を行ったうえで、障害者やフレイル高齢者の栄養状態・サルコペニア・フレイルを改善し、機能・活動・参加、QOLを最大限高める「リハからみた栄養管理」や「栄養からみたリハ」』です。
嚥下リハ患者の全身のサルコペニア率は49%(Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging 2019)であり、またサルコペニアがあるとADLと嚥下機能の改善が悪く自宅退院率が低く(Yoshimura Y, et al. Nutrition 2019)、サルコペニアの改善が必要です。
リハ栄養の改善に向けては「リハ栄養ケアプロセス」(アセスメント・診断推論⇒栄養診断⇒ゴール設定⇒介入⇒モニタリング)の活用が有用です。
サルコペニアでは疑って見つけることと原因の二点がポイントで、加齢・活動・栄養・疾患の四軸で原因をしっかりと見極め適切なアプローチをすることが重要です。栄養でいうと、嚥下リハ患者の一日あたりのエネルギー摂取量は、4人に1人が648kcal以下であり(Wakabayashi H, et al. J Nutr Health Aging 2019)、攻めの栄養管理(ゴールとしての目標体重から逆算し、1日に必要な消費量に蓄積量を追加する)が必要です。改善すべき栄養障害か、改善可能な栄養障害か、の判断もポイントとなります。
サルコペニアによる嚥下障害は非常に多く、肺炎入院患者のうち81%とのデータもあります。(Miyauchi N, et al. Eur Geriatr Med 2019 )予防するには「とりあえず安静・禁食」などの対応により引き起こされる医原性サルコペニアを予防することが重要です。全身にサルコペニアが無ければ、2日以上禁食にしても嚥下障害にはならないため(Maeda K, et al. J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2016)、在宅でサルコペニア・低栄養・低ADLを見つけて改善できる取組み是非とも実践してほしいです。
リハと薬剤や歯科(噛み合わせ)なども密接に関わるケースも多く、新食研でも多職種がそのような視点をもって取り組むとよりリハ栄養が進むと思います。今後は「新食研がリハ栄養を変える」「リハ栄養が新食研を変える」ことを一緒にMTK&H(見つける、つなぐ、結果を出す。そして広める)したいと思います。
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